優しく微笑む父様に私は涙をこらえるために、唇を噛みしめて頷いた。

 父様は私の代わりに罵声を引き受ける、と言っているのだ。

 ハサウェイ伯爵は嫡男の顔に泥を塗られたと思うだろうし、グランデ伯爵だって……事情を知らないにせよ、侯爵爵位付きの娘との縁談をつぶされるのだ。

 絶対に、只ではすまない。そんなことは、この私にだって分かっているのに……。

 けれど、縁談が降るようにあったという社交界の妖精と呼ばれた母様が、貧乏男爵だった父様を選んだ理由が私には今わかった。

「おいで、ニーナ。僕と少し話をしよう」

「シメオン兄さん……?」

 シメオン兄さんは私の肩を押して、近くにある部屋へと誘った。父様は私に微笑んで頷き、ヴァレール兄さんは先程の場所に立ち尽くしたままだ。

 私と向かい合って座り、父様によく似た優しい笑顔を向ける。私はこぼれそうな涙をパチパチと瞬き散らした。

 全部、自分の勝手だ。だと言うのに、ここで自分を可哀想に見せることは、出来なかった。

「やっぱり、好きな人が居たんだな。目に見えて可愛くなったから、きっとそうだろうと思って居たよ」