「……悪かったと思っています。でも、もう自分の気持ちに嘘はつきたくない。兄さん達が……私にかけてくれたお金ならば、出来るだけ……これから働いて返します。どうか、許して欲しい」

 ……涙は見せたくなかった。それは違う気がした。どう考えても、どう見ても、悪いのは私だ。

 けれど、マティアスの覚悟を知って、あの人をそのままにすることなんて、絶対に出来なかった。

「ヴァレール、下がれ」

「父上……」

 静かな声が聞こえて、しぶしぶとヴァレール兄さんは下がった。代わりに近づいて来た父様はシメオン兄さんに似た優しい柔和な顔を綻ばせて言った。

「好きな人が出来たか、ニーナ。お前の母様も情熱的な人だ。あの人に似たんだな……今は寝ているが深夜まで心配して起きていた。後でお前自身が、きちんと説明しなさい」

 良いねと言い含めるように言うと、お父様は私の髪を撫でた。

「父様、本当にごめんなさい……」

「お前には貴族令嬢だというのに働きに出てもらったり、若い頃から色々と苦労をさせた。もう心配しなくて良い。ハサウェイ伯爵やグランデ伯爵には、私が話をしに行こう。お前は部屋に帰って休みなさい」