「冗談だは……馬鹿だと知っていたが、にわかには信じがたい驚くほどの馬鹿な弟だったな。仕事で出掛ける。俺が帰って来たら、詳しく話を聞くぞ」

 アベル様は手を広げ冗談であることを示し、そして、隠し事をしていたマティアスに鋭い眼光を浴びせた。ゆっくりとした足取りで部屋から出ると、パタンと扉を閉めた。

「……マティアス。聞いたの」

「ニーナ?」

「どうして、貴方が死ぬことになるの……お願い。誤魔化さないで、答えて欲しい」

 私が誰から何を聞いたか悟ったのか、彼ははあっと大きくため息をつくと、マティアスは私の手を引いてソファに連れて行った。隣り合って座り、手をぎゅっと握り締める。

「……どこで、それを?」

「ミレイユ様から聞いたの。貴方と結婚するけど一年後には亡くなって、自分は未亡人になるって……だから、子どもを一人くれたら良いんだって」

 マティアスはもう一度、大きくため息をついた。

「悪魔と取引したからだ。一年後、僕は願いを叶えてもらう代わりに、この世を去ることになる」

 いつもきらきらとした輝きを放つ宝石の青い目が、今はどこか虚ろだ。

「どんな願いを、願ったの?」