私は自分の笑顔が凍ってしまったのが、自分でもわかった。種馬ですって?

「……なんのことでしょうか?」

「あら。知っているはずでしょう。見目の良い種馬よ。私の所へと婿に来る予定なの」

 もしかして……ミレイユ様がマティアスの縁談の相手なの? 嘘でしょう……。

「とんでもないところを婚約寸前の相手に見られたのに、破談にならなかったなんてすごく不思議……なんだか、すごく不愉快だわ」

 彼女の言いように、喉の奥がヒュッと鳴った。私たち以外にあの状況を知っているのは、それを仕掛けた人だけだろう。

「もしかして……貴女が?」

「だから、どうしたって言うの? 私を騎士団に突き出す? 誘拐の証拠が何か残っていたら良いわね。私がここでこう言って居たと、貴女だけの証言では弱すぎるわ」

 もう一度、美しい顔を歪めてにいっと笑う。

「何故、あのようなことをなさったんですか」

 彼女の言うとおりだし、証拠はきっと出てこない。私は悔しくて、スカートの上でぎゅっと両手を握り締めた。ドレスの糊のきいたレースが当たって痛い。