「……分かってるわ」

 兄に念を押すように言われて、私は自分の部屋へ向かうためくるりと身を翻した。

「ニーナ様、お手紙が来ております」

「……あら、今日は朝に受け取ったと思うけど」

 雇われたばかりの新米執事オスカーが、一通の手紙を私に渡した。

「どうやら、急ぎの用のようで、その家の者が先程持ってきました」

 手紙をひっくり返して見てみると、マティアスのお兄様、アベル・グランデの署名だ。

「ありがとう」

 私は急ぎ足で部屋に戻り、ペーパーナイフで手紙を開けた。

 アベル様の手紙の内容はというと、弟マティアスの縁談が来たので止めるなら今だぞということが流暢な文字で書かれていた。

 ……マティアスの縁談。

 胸がズキンと痛む。でも、私だって、ジャンポールとの婚約を進めているのだから、何も言う資格はない。

 私は一体、何をしたいんだろう?

 メイヴィス様の恋とラウル殿下の命を救いたい。だから今この時に戻ってきているはずだ。

 このままだと、もう一度やり直しても同じことになってしまう。