……こんなこと、良くないことだとわかっているのに、気持ちよくて抵抗できず、頭がぼーっとする。

 くちゅくちゅと水音が馬車の中に響き、ジャンポールは私を自分の膝の上に乗せるとより長くて深いキスを仕掛けてきた。

 なんだかもう、上から覆いかぶさって口を開けられると、比喩でもなんでもなくそのまま食べられてしまいそうだった。

「ん、だめ、ジャンポール」

「ダメと言うような顔でもないだろう」

「だって……」

「俺たちはもう、婚約するんだ。こういうことも後か、先かの違いだと思うが」

 ジャンポールの黒い目は揺れていて、言葉とは裏腹に不安そう。私は一体何をしているんだろう。

 マティアスに何か秘密があって私と別れたとしても、今現在、婚約しようとしているのは、目の前のこの人で。

 こうすることは、自然なことなのかもしれない。でも、心のどこかで泣いている自分も居るような気がした。


◇◆◇


「……帰ったか、ニーナ」

 ジャンポールに送ってもらい馬車から降りて、クルーガー男爵邸へと入ると、ヴァレール兄さんが玄関で待ち構えていた。

「ただいま。ヴァレール兄さん」