初めて共に出席した晩餐会後の馬車の中で、ジャンポールは難しい顔をしたままで、むっつりと押し黙っている。

 今日はハサウェイ伯爵とクルーガー男爵……私のお父様の共とご縁のある家での晩餐会で、ある意味では婚約前の私たちの仮のお披露目でもあった。

 迎えに来てくれた時から、もしかしたら、疲れているのかなとは感じていたけれど、帰りの馬車に入ってからは一言も発しなくなってしまった。

 この前の……非常事態とはいえ、あんなところを見られてしまったから、怒っていても無理はない。

 誘拐未遂からの本格的な誘拐事件になり、私は見事、一人での外出禁止の身分になった。

 あの事件は、犯人はまだ見つかっていなく、そもそもの目的もわからないままだ。

 何故マティアスに媚薬を飲ませて、縛り付けた後に放置したのか、そして……その場所を、ジャンポールにわざわざ教えたのは誰なのか、今も謎のまま。

「……ニーナ」

「ん、は、はい」

 考え事をしていた私は、名前を呼ばれ慌てて顔を上げた。ジャンポールは凛々しい顔の眉間に、皺を寄せている。

「この前のことなんだが」

「はい」