前から歩いて来ている人があんまりにも近いなと、のんびり思ったその瞬間、視界が真っ暗になった。

◇◆◇

「……ロディ、ニーナ」

 聞き覚えのある声が聞こえて、私はパチリと目を開けた。

「マティアス?」

 そうだ。セイラに会いに街を歩いていた時に、私は気を失って、それで?

 ここはどこ?

「ニーナ、大丈夫か?」

 目を走らせば、粗末な印象を受ける部屋の真ん中に椅子に縄で縛られたマティアスが居た。私は驚き横になっていた絨毯を敷かれた床から、飛び起きた。

「マティアス!」

「ニーナ。無事で良かった」

 マティアスは、はあはあと息が荒い。

 頭から血を流している。私は息を呑んだ。懐に手をやれば、あの時馬上から私を救ってくれたナイフが残されている。

 ……気が付かれなかったのかしら。

「待って、マティアス、今ナイフを出すから、縄を切るわ」

「……! ダメだ!!」

 せっかく助けようとしたのに勢い良く怒鳴られ、私は驚いた。

 ナイフで彼を椅子へと縛る縄を切らないと、ここからは脱出できない。

 それはマティアスだって、良く分かっているはずだ。