メイヴィス様は、世間を知らないので、身分差も気にしない。たまにこういう突拍子のないことを思いつくことがあった。

 断ったというのに、彼女の形の良い唇は、楽しそうに弧を描く。

「あら……そうしたら、私がミランダにお願いするわ。良いでしょう?」

「メイヴィス様……しかし」

「せっかくだから、お揃いの小花柄のドレスを着ましょう。このドレスによく似たドレスの色違いで、お姉さまのものがあったはずだわ。ラウルに私付きの可愛い侍女たちを紹介して自慢したいのよ……ねえ、セイラ、ニーナ。お願いよ」

 渋る私たちに言い募りながら、可愛らしい丸みの頬が紅潮している。

 私たちは再度、顔を見合わせた。メイヴィスお嬢様のお願いに太刀打ち出来る者は、このクロムウェル公爵邸には、居ない。

 仕事に厳しく、作法にうるさい、メイド長のミランダさんだって、それは同じだ。

 私たちはふっと同時に笑い合う。

 メイヴィスお嬢様のきまぐれは、いつものことだけれど、こういう気まぐれなら大歓迎だ。

「かしこまりました。お嬢様」