噴水が、規則正しく、水を噴射する。



りおは、



「癒されるね」



と言い、二人は、水滴が滴り落ちる様子をただ見ていた。子どもの頃に見た、公園の噴水を思い出しては、交際という感覚の真新しさだけがそこに座っているのだ。同じことを繰り返す噴水が、まるで二人を包んでいる。



「あやは、やっぱりこの辺りに来た事あるよね?」



あやは、返事をしない。



「『やっぱり』って事はないか」



りおは、



「大丈夫?」



と聞くと、あやは泣いていた。



「え?」と戸惑うりお。



あやは、そのまま、下を向いてメソメソと泣き出したのだった。



薄い身体に湾曲した肩の骨。



互いの気持ちを分け合うように、寄り添う二人の身体。



真夏の夕方。



噴水の音。



あやは、スクッと立ち上がると、鼻をすすりながら、りおを見た。



あやは、目が赤く腫れて、苦笑いをしながら言う。



「もうダメなんだ。演技」



目に溜まった涙を、指でしゃくった。



「日常で、演技のパフォーマンスが出てくるのが、嫌なんだ」



目を閉じて、悔しそうにする。



「自分が無くなってしまわないようにって、爆弾を抱えたまま、演技に自信もない」



りおは、優しく微笑んだ。プロの役者という階段の踊り場で立ち尽くしたままのあやと、これからプロの小説家を目指していく自分とでは、精神に懸隔のあることは分かる。あやが上で、りおが下。そのうえで、今、心を癒したいのは同じ。



「私でいいの?」



あやは、目を見開いて、



「何度でも、探し出してみせます!」



と言った。



「何度でも、私を選んで頂戴」



りおは、そう言って、俯いて、目をスッと閉じた。お姫様と王子様がいて、私を必要としたり、私を守ろうとしたりする。私はきっと、魔法使いと赤い鳥。ゆっくりと立ち上がり、目を開けた。



噴水公園の水が、二人を急かすことなく、音を立てる。綺麗な水の音。私達のようだと、りおは思った。



あやは、りおを抱きしめて、



「好き」



と言った。



赤のワンピースが、くしゃっとなって。魔法使いと赤い鳥が王子様とお姫様に抱かれているような抱擁。



「私も好きだよ」



りおは、あやの柔らかな胸に抱かれた。もしかしたら、泣いたあやは、本当は、自分と同じ事で悩んでくれたのかなとも思ったのだ。つまり、あやは、りおこそどのような同性愛者で、どのように好きなのか知りたくて。それであやは泣いたり、笑ったりしているのかなとも思った。いつも同じ気持ちで、同じ事で悩んで、その度に互いを信じ合えるのならそれで良いのだと思った。