綺麗なテラスに、本場大阪の屋台がズラッと並んで、職人が腕を競うような、面白さがあった。テラスはフードコートになっている。アミューズメントのような華美が小さな旅でやって来た二人を出迎えた。そして、あやとりおの心を掴んだ。
「大阪の職人さん!」
本場の職人の腕捌きが、かつお節が目に入るようで、眩しい。
「買って帰ろう!」
「食べよう!」
二人で職人の手の動きや、レシピをメモしていると、職人は笑っていた。
「地上の楽園だね!」
テラス席のテーブルに向かい合って座る、二人。
りおが、
「連れてきて良かった」
と言うと、あやはテーブルの向かいから手を伸ばして、りおの手に重ねた。
「なに?」
「握撃!」
そして、りおの手を力いっぱい握った。
「それ『握撃』って言うの?」
と、りおが首をかしげて聞いた。
あやは、手を引っ込めた。
「漫画?」
と、りおが追求すると、あやは言う。
「小学2年生の頃、好きな子と大阪でたこ焼きを食べて、たこ焼きが大好きになった!」
「男の子?」
「うんと子どもの頃は、普通に男の子好きだった!」
きっと、その男の子の技だと、りおは思った。
すると、あやは、テラス席の向こうを指さして、
「この後、観覧車も行かない?」
と言った。
指先の向こうに観覧車がある。りおの丸眼鏡に、映る大きな観覧車。恋人同士と言えば、たとえばあの大きな観覧車の中で心を重ね合わせるように、ひと時を過ごすものだと、誰しもが連想する。
りおは、
「行こう」
と静かに言った。私達は恋人のようだ。あやは気持ちの延長で自分りおと触れ合っていたいだけなのか、疑念が幾ばくか影を落とす時があるものの、ここまで仲良くなれた喜びも大きかったし、心の深浅でやる事では無い。
その後、二人は、商業施設内にあるアミューズメントのコーナー、アトラクションを順繰りに見て回って、夕方になる頃には一通り遊んだ。
これから観覧車へ向かう道で、家族連れや、カップルが縦横に行き交う。
あやは無言で、りおの顔を覗き込む。
りおは、
「どうしたの?」
と聞いた。
少し間を置いてから、あやは、
「文化祭当日は店子のほうをやりたい!」
と言った。
「あぁ、なんだそんなことか。売るほうをやりたいのね」
「売れると思う!」
あやは、そう言って後ろ髪をシュパッとなびかせて、見せた。
りおは、少し疲れていた、体力が違うからといえば、その通りだが、あやとこんなに沢山時間を共にしたのも思えばはじめてだから。そして、あやの一挙手一投足に、同性愛の形として意味があるのか。要は、自分を好きだとして、どのような好きなのか。あやは、どの同性愛者のカテゴリに属しているのか、悩んだ。
りおは、
「観覧車に行く前に、噴水公園で少し休んでいいかな?」
と言った。
あやは、無言で「うむっ」と頷いた。