バスに揺られていた。日が落ちてからもう大分時間が経っている。窓の外は暗く、乗客は誰もいない。バスは夜の街を走っていく。時々目に刺さる街灯の光が眩しい。

 もうすぐ停留所に着くというところで、降車ボタンの赤いランプが光った。

──次、停まります。

 無機質な女性の声が車内に響き、私ははっと顔を上げた。聞き逃しかけた違和感に気づいた途端、底冷えするような冷たさが体の芯から喉元を伝い上がる。

 一体、誰がこのボタンを押したのだろう。

 このバスの乗客は私しかいない。私が押していないのならば、誰も降車ボタンを押すはずはないのだ。ふと、鏡越しに目が合った運転手も、強ばった顔をしていた。それを見て、自分の認識が誤ってなどいないことを知る。いるのだ、このバスに。

 小さな箱の中、震えを止める術を知らず、バスは進んでいく。