誰もいないはずなのに気配を感じることがある。まさに今がその時だった。風呂場で髪を洗っていると、後ろから視線を感じた。脱衣所に弟がいるのかと思ったけれど、弟の声は更に遠いリビングから微かに聞こえる。

 どくん、どくん、と心臓が早鐘を打つ。振り向いて確認したいのに、誰かがいたらと思うと首が固まったように動かない。

 ぴちょん、ぴちょん。断続的に背後から聞こえる雫の音は、偶然か、それともいるはずのない“誰か”が立てているのか。

 しかし、いつまでもこうして風呂場にいることはできない。どうせ気のせいだと自分に言い聞かせて、ぎゅっと瞑っていた目を開ける。恐る恐る振り向いて、息を吐いた。あぁ、よかった。誰もいない。