俺が掴んだ腕を離さないから、彼女は少し戸惑ったように「ごめんなさい、怪我しませんでしたか?」と聞いてきた。
俺は急いで腕を離して、「大丈夫だよ。君こそ大丈夫だった?」と聞き返した。
…かわいいなぁ。彼女が頑張って口を動かしている。俺は、音の消えた動画を見ている気分だった。彼女は困ったように俺の顔をのぞく。
「あ、あの本当に大丈夫ですか?」
彼女が声量を上げて、俺はやっと我に返った。
「あ〜、もうすぐで式始まるらしいから、俺もう行くね」
「あっ、そうですね。じゃあ」
「またね」
俺は彼女に手を振って体育館へ向かった。