「いいよ。実を言うと、僕もこういう席は苦手でね」
「王子……なのに、ですか?」

 王妃様を母に持ち、将来は王太子だと誰もが疑わない地位にいるクライド殿下が?

 兄はよく言っていた「その地位に生まれた者は、義務を果たさなければならない」と。
 だから私に、ファンドーリナ公爵家の血を引いた女として、クライド殿下と結婚をして、王妃となり国母になれ、と。

 おそらく、デニス様を好きになったのは、その細やかな抵抗だったのかもしれない。兄の言いなりになって、クライド殿下と結婚したくない、という。

 それが顔にも出ていたのか、クスクスと笑われてしまった。

「公爵令嬢の君だって退屈しているのに、僕は王子だからダメだというのは、おかしくないかな」
「私とクライド殿下とでは、そもそも生まれが違います。それを知らないとは言わせませんわ」

 素性が明らかでも、婚約者候補の内情くらい、頭に入っている、もしくは誰かが教えてくれるものだろう。