「ファンドーリナ公爵様。今日は折角の祝いの席だというのに、婚約者であるクライド王太子殿下はどうしたのでしょうか」
「エスコートをしてもらえなかったのには、何か理由でもあるのか、とお聞きしたいようですね」
「いえ、私は……」
「構いませんよ。貴女が気にするように、私もクライド殿下の真意を測りかねていますから。特に最近は、疎遠になっていますもの」

 しおらしく演じて見せると、案の定、目の前の令嬢は悲しい眼差しを向けてくれる。それは聞き耳を立てていた者たちも同じだった。

 ふふふっ。そろそろいい頃合いなのではないかしら。

 私は後ろに控えているデニス様に、合図を送った。するとしばらくして、入口付近から歓声が、いやざわめき声が聞こえてきた。

「クライド・ルク・セルモア王太子殿下並びにミランダ・ロブレード嬢のお越しです!」

 高らかに宣言されて、さらに会場内の声が、ざわめきから驚きへと変わる。そして私に注がれる視線は、哀れみと戸惑いの色ばかり。けれど私は気にならなかった。

 何故なら、これから起こることは想定内の出来事であり、またファンドーリナ公爵となった私が、初めて担う大仕事だったからだ。