「履き違えてはいけないよ。政略結婚とはいえ、ヘイゼル嬢は僕の婚約者だ。僕は婚約者を守る義務がある。そうでないと、公爵も困るだろう? ヘイゼル嬢が蔑ろにされれば、ファンドーリナ公爵も力を失うのだから」
「それをいうのならば、我が公爵家の力がなければ王太子になれないのではありませんか? 私を怒らせてもクライド殿下のためにはなりません」
「うん。そうだね。だから今のところは、夫人をヘイゼル嬢から遠ざけることで手を打たないかい?」

 そもそもクライド殿下は王太子になりたくないわけだから、兄と取引をしても意味をなさない。だからこそ、クライド殿下はどこまでも強気だった。

「このまま公爵とは決裂して、婚約破棄をしても僕は一向に構わない。新たな後ろ盾を見つければいいだけだからね」
「そのような家門などありますか?」
「僕の母上の実家があるじゃないか。今は低迷しているが、このままヘイゼル嬢を王城に連れ帰り、父上に進言して養女にしてもらえるようにしたら、どうなるかな」
「クライド殿下!」

 今度は兄が叫んだ。