「当然です! 何故、このような場を……それに私は何も――……」
「していない、とでも言いたそうだが、すでに録音済みだ。確か「伯爵家の分際で」と言っていたな」

 クライド殿下はそう言いながら、デニス様から受け取ったコンパクトを開けて、義母に聞かせた。

「つまりこれは、王子の分際で、と言っているのに等しい発言だ。さらにいうと、ヴェルダー伯爵に対しても失礼だとは思わないか? 夫人に何もしていないというのに」
「私はそこの騎士……いえ、ヴェルダー卿に言ったのであって……」
「ヴェルダー卿はファンドーリナ公爵家に遊びに来ているわけではない。僕の婚約者であるヘイゼル嬢のためにつけた護衛だ。そのため、ヘイゼル嬢に何かあった時のことを考慮して、僕と同じ権限を持たせている。非常事態にいちいち承諾を求めていたら、間に合わなくなってしまうだろう?」
「ですがこの場合は、非常事態ではありません」

 蒼白になった義母を擁護(ようご)する兄。しかしクライド殿下は、想定内の返答だと言わんばかりに落ち着いていた。