あぁ、無知とは本当に怖い。

 デニス様が義母に見せたのは、紋章が付いた、ただのコンパクトではないのだ。それを開けると……。

『さて、無礼なのはどちらだろうか』

 小型通信機になっている。しかも録音までできるという優れものだ。

「そ、そのお声はクライド殿下……」
『さすがはファンドーリナ公爵夫人。名乗らずとも僕だと理解してくれて助かるよ。でも……ヴェルター卿に関しては察しが悪かったね』

 姿は見えないが、通信機の向こう側で口角を上げるクライド殿下の姿が容易に想像できた。