「婚約解消となりましたが、私はクライド殿下と婚約できて幸運だったのですから」
「それは嬉しいが、ヘイゼル嬢の想い人に殺されかねない言葉だから、くれぐれも彼の前では言わないでくれよ」
「あっ、そうですね。私もクライド殿下の想い人にも嫉妬されたくはないので、もう言いません」

 私は思わず、先日の出来事を思い出した。
 クライド殿下が、ミランダ・ロブレードという商人とのスキャンダルを大々的に発表し、大勢の前で私に婚約破棄を言い渡したのだ。そのため、国王様の怒りに触れて、王太子を剥奪(はくだつ)された。
 けれどクライド殿下には人望があったため、王子という身分までは取られなかったのだ。次の国王になれなくても、自分を支えてほしい、と願う弟君の願いによって実現されたことだった。

 私も助けていただいた身であるため、弟君の気持ちは痛いほど分かる。もしも本当に平民に(くだ)ったら、全力でお支えしようと思っていたくらいだ。それほどに、クライド殿下は国になくてはならないお人であり、人望の厚い方だった。