「これでようやく、婚約を解消できそうだよ、ヘイゼル・ファンドーリナ公爵令嬢」

 目の前に座る、水色の髪の男性、クライド・ルク・セイモア殿下は、そう言いながらニコリと笑って見せた。その晴れやかな笑顔に、思わず私も微笑み返す。

「それは良かったです。手続きの方も順調、ということで合っていますか?」
「あぁ。けれど、これまでの経緯なども含めて、ヘイゼル嬢には迷惑をかけたね」
「いいえ。滅相もありません。クライド殿下にはたくさん助けていただいたのですから、そのようなお言葉は不要です」

 そう、もしもあの時、クライド殿下からの申し出を受けなければ、今も私はファンドーリナ公爵家の中で、肩身の狭い思いをしていたことだろう。そして、兄の言いなりになって、どこぞの令息……もしくは金持ちの老齢な貴族のところへ嫁がされていたかもしれない。