激しく揺れる馬車から遠くなってゆく王都を眺めながらなんとも言えない気持ちになる。

 馬車の屋根に落ちる雨の音が静かな車内に響く中、目の前に座る父、エミリオ・グランデスの顔を凝視する。

「雨が止(や)むまで待てばよかったのに」
「ルシア、そんなに父を睨(にら)まないでくれ」

 睨んではいないけれど、確かに顰(しか)めっ面をしていたかもしれない。だって、何もこんな雨の日に移動しなくてもよかったのに……。

「早く雨が止むといいなぁ」
「向かう領地はどんな場所だろうね。ルシアも楽しみだろう?」

 呑気(のんき)にそう言う父に対して毒を吐きそうになるのを我慢する。なんせ、私はまだ三歳児だ。静かにしておくけれど、心の中では楽しそうに笑う父の顔を引っぱたきたかった。行く領地は辺境オブ辺境だと聞いた。

 父よ、気付け! 私たちは体のいい左遷に遭っているだけだ!