ダミアン・ヒースウェル。
 この国の皇太子であるが、気性が荒く、何かあるとすぐに喧嘩をしかける問題児で、周りからは荒くれ王子と恐れられている。その乱暴者から王位継承は難しいとまで噂されているほどだ。

「舞踏会場に戻らなくていいのですか?」

「なんだよ、俺がどこで何をしようが勝手だろ?」

「そ、それもそうですわね」

 口調も荒ければ、振る舞いも王子らしくない。彼はどうも苦手だ。私はどうやってこの場から抜け出そうか考えた。
  
「お前この前の舞踏会で盛大に婚約破棄されていたな」

「殿下もいらしていたのですね」

「いいもん見せてもらったぜ」

「そうですか」

「そうですかじゃねぇだろ」

 王子はイライラした様子で私を睨んだ。

「お前あんな人前で婚約破棄されてよく笑っていられたな」

「そうですね。自分でもびっくりしてあはは……」

「また笑ってやがる。お前、俺が荒くれ王子だって知ってんだろうが」

 この人、もしかして……。
 私はダミアン王子を見て、少しばかり親近感を覚えた。

「殿下と私は似ているのかもしれません」

「似ているだぁ?」

「私は笑って、殿下は怒って、本当の気持ちを隠してしまっている。本当はそんなことしたくないのにどうしてもそれが先に出てしまうんですわ」

 私はしまったと思って口をつぐむが、遅かったようだ。ダミアン王子の顔を見ると、私を睨み付けて青筋をたてていた。

「申し訳ありません殿下。言い過ぎましたわあはは」

 王子はずかずかと私に近づいてくる。私はそれに合わせて後ずさるが、壁に当たってしまった。彼の手が私の頬を掠めて、壁を思い切り叩く。

「面白いじゃねぇか」

「え?」

 荒くれ王子は不敵な笑みを浮かべた。

 
「お前、今日から俺の女になれ」
「……?」


 え、ええええええええ?