舞踏会で踊っていた人々が動きを止めて、私たちの方を見て、ひそひそと話をしている。注目されている。私は彼に辱しめられている。

 ここは、言い返さなくては。こんなところで話すことではないと。怒った表情で言い返さなくては。
だが言葉は、私の表情は、私の思いを見事に裏切った。

「何か気に入らないところがあったようですね。申し訳ありません」

 震える手をぎゅっと握りしめながら、ニコッと笑ってしまう。イーベリアン公爵の怒りをさらに買ってしまったのか、彼は怒鳴り散らした。
  
「その笑いだよ! 本当は私との婚約が破棄になって嬉しいのか? いつもヘラヘラ笑っていて、まるで馬鹿にされてる気分だ。君に笑う以外の感情があれば知りたいもんだね」

 私は酷いことを言われているにもかかわらず、またニヤァと笑ってしまう。一人の伯爵がボソッと呟いた。

「まるで笑う機械人形だ」

 イーベリアン公爵は軽蔑した目で私を見て、

「さようなら。カトリーナ」

 と言うと、会場から立ち去る。

 笑え。笑っておけ、カトリーナ。
 泣くなら屋敷に帰ってから泣けばいい。
 今はこの舞踏会の空気を壊してはいけないのだ。