「君の愛想笑いにはもううんざりだ!」

 夜の舞踏会で皆がにぎわう中、イーベリアン公爵が私を指差してそう言い放った。

 私はその時も、感情を押し殺して笑っていた。
  
~愛想笑いのせいで婚約破棄された私が、ツンデレ王子に愛されるまで~
  
 物心ついたときから両親の仲が悪かった。2人は恋愛結婚をしていたはずなのだが、途中で父の放浪癖が嫌になったらしく母は愛想をつかしたそうだ。2人は何かあれば大喧嘩をして、酷いときには花瓶を投げ合い、お互いを罵ることもあった。
 
 私はお父様もお母様もどちらも大好きだ。お父様は気さくな方でいつも私を見ると笑ってくれるし、お母様は神経質ではあるものの、私が大好きなクッキーを焼いては一緒におしゃべりを楽しんでくれる。だから、2人が仲良くなるようにいつも笑顔を絶やさず、常に2人の間を取り持っていた。
  
 私が明るく笑っていれば2人の関係が悪化することはないんじゃないか。私がいい子にしていれば、いつか昔のように家族は円満になるんじゃないかと根拠のない思いを馳せて、嫌なことがあっても辛いことがあっても笑っていた。

「カトリーナ。お父様に伝えてくださる?」
「カトリーナ。イメルダに伝えてくれ」
「カトリーナ」「カトリーナ。伝言を」
「カトリーナ。彼女に伝えてほしいことがある」

 笑顔だ。笑顔を忘れるなカトリーナ。
 お前が父母の関係を支える柱。
 天秤の支柱の役目を担っているのだ。
 
「わかりましたわ。そうお伝えしますね」 

 こうして私はいつの間にか愛想笑いが板についてしまったのだ。

「カトリーナ・ガリレース公爵令嬢。すまないが、君との婚約を破棄させてくれ」