玄関で沙羅と晴を見送る悠真の腕にはしっかりと腕時計が嵌めてあったのを沙羅は確認した。やはりあれは沙羅を晴の部屋に行かせる口実だったのだ。

『沙羅が乗るんだから飛ばすなよ。安全運転、わかってるな?』
『わかってるって。ほら沙羅、行くぞー』
「はぁい。いってきまーす」

沙羅と晴は玄関を出た。思えば晴と二人きりになるのは今夜が初めてだ。
晴は無言でエレベーター内の壁にもたれて階数表示を眺めている。彼は今何を考えている?

『……沙羅、サンキュ』
「へ? 何が?」
『んー……なんとなく言いたくなった』

 晴に礼を言われることはしていない。困惑する沙羅に晴は曖昧に笑って、二人はマンション地下の駐車場に向かった。

「バイクってこんなに大きいんだね」

駐車場の駐輪スペースに停めてある晴のバイクは黒を基調としたボディに赤のラインが入る洒落たバイクだ。
晴は沙羅の頭にヘルメットを被せ、手をとってバイクの後ろに彼女を乗せた。沙羅の前に跨がった晴もヘルメットを装着する。

『行くぞー』

 けたたましくエンジン音を鳴らしたバイクが駐車場を飛び出して渋谷の街を駆ける。
4月の夜はまだ肌寒い。密着した晴の背中から伝わる体温にホッとした。

『沙羅と二人で外出なんて悠真がよく許したよなぁ』
「何言ってるのか聞こえないよー!」
『なんでもないよー?』

夕食の時の沈黙が嘘のように晴は軽快にバイクを飛ばしていた。