沙羅は二階の奥から二番目の扉の前で立ち止まった。扉にかかるプレートにはオレンジ色でHARUの文字。
ノックをしようと構えた時に扉が開いて彼女は仰天した。

『沙羅。どうした?』

部屋を出てきた晴は薄手の黒いパーカーを羽織っている。

「えっと……出掛けるの?」
『ちょっとバイクでひとっ走りしてこようと思って。俺に何か用だった?』
「あのね、悠真が晴の部屋に腕時計忘れたかもしれないって……」

 沙羅は身振り手振りで説明をするが、どうしても挙動不審になってしまう。

『悠真の腕時計? 俺の部屋にそんな物なかったよ』
「そっかぁ。じゃあ、なかったって悠真に言ってくるね……」

ぎこちなく笑う沙羅の隣に晴が並んだ。

『沙羅も一緒に行くか?』
「え?」
『夜のドライブ行く?』

 バイクの鍵と思われる物を指で回しながら微笑する晴は格好いいとしか言い様がない。
そうだ。この家にはイケメンしかいないのだ。

「バイク乗せてくれるの?」
『もちろん。夜だからそんなに遠くまで行かないけど気分転換にはなるぜ』

今の晴に憂いの表情はない。元気がなかったと感じたのが気のせいだったのかもわからない。
けれど晴と二人で話せるいい機会だ。