彼の意図を察した沙羅は勢いよく立ち上がる。

「……うん。わかった。晴に聞いてくる!」

 食べ終えたプリンの容器をゴミ箱に捨て、彼女は颯爽とキッチンを飛び出した。一部始終をリビングで傍観していた海斗が呆れ顔でカウンターに近付いてくる。

『兄貴の腕時計ならあそこにあるけど?』

リビングのテーブルに転がっているのは悠真の腕時計。カウンター越しに海斗と悠真は顔を見合わせた。

『そんなところにあったのか。沙羅を晴の部屋に行かせちゃったよ』
『わざとらしい棒読みー。兄貴って絶対策士だよな』
『仕方ないだろ。沙羅が晴の様子を気にするのはわかるが、俺からその理由を言うわけにはいかない。でも沙羅は俺が理由を言わないことで疎外されていると感じたんだ。なら晴に直接聞くのがベストだ』

 先ほどまで沙羅が座っていたカウンターの椅子に海斗が腰掛ける。

『晴が“あのこと”沙羅に言うと思う?』
『さぁな。言わないなら言わないでいいんじゃないか? 大事なのは人づてではなく本人に直接確かめること。……少し塩を足すか』

ミネストローネの味見を終えた彼は上階の様子を気にしつつも、慣れた手つきで鍋の中身に塩をふった。