ブルーグレーの瞳に映る沙羅は落ち着きなく視線を彷徨わせていた。

「嫌じゃない……よ……?」
『良かった。もし敬語破ったら……』
「破ったら……?」
『罰としてキスしちゃうからね?』

耳元で囁かれた甘い言葉に心臓が跳ねた。熱でも出たみたいに全身が熱い。

「えっ……あの、家族はそんなことしないんじゃ……」
『あははっ。沙羅ちゃん顔赤い。そんな可愛いともっとからかいたくなるなぁ』

星夜は沙羅のセミロングの髪を一束すくい、その束に口付けを落とす。この状況がかなり危ないことは頭ではわかっているのに優艶《ゆうえん》に惑わす星夜に魅了されて沙羅は動けなかった。

『ずいぶん仲良しになったな』

 星夜の言動に狼狽する沙羅の後方で声が聞こえた。キッチンとダイニングを仕切るカウンターに悠真がもたれて立っている。

『おおう。我らのリーダーのご登場だ』

悠真の出現にも慌てない星夜は触れていた沙羅の髪を手離して口元を上げた。

『星夜。沙羅ちゃんをからかうんじゃない』
『はいはい。沙羅ちゃんに敬語使わなくていいって言ってあげたんだよ』
『敬語禁止を破ったらキスは感心しないけどな?』

 腕組みをして沙羅と星夜を見据える悠真は微笑んでいるのに何故だか怖く見えた。