それから何曲かUN‐SWAYEDの歌を聴かせてもらった。ライブハウスと化した音楽室の空気はギターの物悲しい旋律に震え、やがて静寂が訪れる。

さぁ今度は沙羅の番だ。客席にいた沙羅はピアノの前へ、演奏していた四人は客席のソファーに。

『沙羅ちゃん、リクエストしてもいい?』

鍵盤の前に座る沙羅に悠真が優しげな笑みを向けた。

「私が弾ける曲なら……」
『ショパンのノクターンをお願いできるかな?』
「わかりました」

 ショパンのノクターンは沙羅の思い出の曲。真夏の夜想曲だ。
白と黒の世界を沙羅の指が這い、優しくて穏やかなメロディが音楽室に広がっていく。

 海斗はピアノを奏でる沙羅の横顔を見つめ、悠真は腕を組んで目を閉じ、星夜は膝の上に置いた指でリズムを刻み、晴はノクターンのメロディに肩を揺らす。
行成は愛しさのこもる眼差しで沙羅の演奏を見守った。

 沙羅の演奏に四人は口々に演奏に対する賛辞を述べる。海斗だけは『途中で音程狂っていたけどまぁまぁだな』と皮肉混じりの賛辞だったが。

(仕方ないじゃないっ。先生やお父さんの前で弾くのとは別の緊張感があったんだから!)

沙羅がミスをしたのは海斗のせいでもある。演奏中ずっとこちらを見ている海斗の視線が気になって演奏に集中できなかったのだ。