沙羅の部屋の床に行成は正座している。沙羅はベッドの上で膝を抱えて顔を伏せていた。

『沙羅ごめんね。いきなり男の子と同居なんて沙羅が怒るのも無理ないと思う』

目を合わせようとしない無言の娘に彼は優しく語りかける。

『でもこれは沙羅のためなんだよ』
「……私のため?」
『うん。お父さんね、しばらくアメリカに住むことになったんだ。アメリカの音楽会社に招かれていてね。しばらくはアメリカを拠点に活動するつもりだよ』

 ようやく沙羅が顔を上げた。眉毛を下げた不安げな表情で沙羅は行成を見つめる。

「こっちの会社はどうするの? お父さん社長でしょ」
『僕が日本にいなくても会社は回っていくさ。仕事はネットを通してできるからね。インターネットは世界共通だ』

さすがちゃらんぽらんでいい加減で自由人で破天荒な父親だ。会社の経営は父が大丈夫だと思うのなら大丈夫なのだろう。

「どれくらいアメリカにいるの?」
『とりあえず1年。もう少し延びるかもしれない』

 学校の帰りに織江と話していた予想が少なからず当たってしまった。

海外に1年と言われても今更驚かないが、これまで行成が沙羅を日本に残して家を開けた期間はせいぜいが長くて半年程度。
父と1年離ればなれになるのは初めてだ。

『だからあの四人にここに来てもらったんだ。僕がいない間も沙羅が寂しい思いをしないように』
「ねぇ、あの人達何者? お父さんの仕事関係の人?」
『仕事関係……と言えばそうだね。お父さんは彼らを昔からよく知っている。彼らなら沙羅を任せられる』

穏やかな態度の父の真意が見えずに沙羅は頬を膨らませた。