そして沙羅はあることに気付いた。明らかに父以外の男物の靴が数えてみると四人分。
顔を合わせた結城星夜の他にあと三人がここの家に出入りしている計算になる。

『……おい』

 リビングの扉の前であれやこれやと思案していた沙羅は背後から聞こえた声に肩を跳ねさせた。恐る恐る振り返った沙羅はまたしても言葉を失う。

(……今日はイケメン遭遇率100%なの? 天気予報のお姉さんもそんなこと言ってなかったよ……?)

 不機嫌そうに寄せた眉、ヘの字に曲がった口元、こちらを見つめる鋭い眼差し。
結城星夜が王子様ならこちらは悪の帝王か、闇の魔導師か、とにかく不機嫌な顔も美形だと絵になるな……などと沙羅が悠長なことを考えていると。

『邪魔。そんなとこに突っ立ったままだと入れない』
「……はぁ?」

今、人を邪魔と言ったこの男を一瞬でも美形だと思った思考を沙羅は一切合切排除した。

「ちょっと! ここは私の家で……」
『知ってる』

 小柄な沙羅の横をすり抜けて不機嫌な男はリビングに入っていく。人の家にいるのに家主に挨拶もなしとは失礼な人間だ。