段ボールの山は先ほどよりも減っていて開けっ放しになっている自宅の玄関まで見通せた。

『あ、沙羅ちゃん。お帰り』

段ボールの山からひょっこり出てきた人物に沙羅は目を見張った。父がイケメンだと騒がれても娘の自分にはまったく理解はできなかったが……

(これが世に言う……イケメンっ?)

 イケメンなんて言葉でひとくくりにしてはいけない。目の前にいる男は見目麗しい紳士だった。童話に登場する王子様を実写化すればきっと彼のような容姿をしているのだろう。
瞳の色は青色にも灰色にも見える不思議な色をしていた。

『沙羅、星夜《せいや》くんに魅《み》とれているね』
「なに言ってるのお父さん! ……この人は?」

男の美しさに魅了されてボーッとしていた沙羅はすっとんきょうな声を発してしまった。行成は面白そうに笑っている。

『同居人だよ』

 風が吹くようにさらりと言い放たれた父の言葉が沙羅をまたしても放心させた。

「どうきょにん……?」
『沙羅ちゃん、はじめまして。結城星夜です。よろしくね』
「えっ……あ……葉山沙羅です……」

状況が理解できない沙羅はしどろもどろに挨拶をして結城星夜に頭を下げた。

『詳しい話は中に入ってからね』

 父に促されて沙羅は結城星夜と共に広々とした玄関ホールに入った。見慣れた家の景色が玄関ホールにも積まれた段ボールのせいで別の場所に見えてくる。