鈴木教諭への恋を自覚して以降、鈴木と会える毎週の部活と美術の授業が比奈の楽しみになっていた。
 鈴木に会える日は校則で禁止されているメイクをこっそり施して、美術の授業前と部活の前は心はそわそわどきどき落ち着かない。

 でもいざ会えると、彼の顔をまともに見れない。上手く話せない。

(意識しすぎだよね。初めてだらけのことでどうしたらいいのか……)

 美術部の授業や部活を繰り返すうちに比奈はある事実を知った。男女問わず上級生の誰もが顧問の鈴木教諭を「ズッキーニ」と呼んでいるのだ。

 ズッキーニは生徒から親しみを込めて呼ばれている彼の愛称。何故、きゅうりに似ているくせに実はかぼちゃの仲間のあの野菜と同じ名前なのか、先輩達に尋ねても愛称の出自は誰も知らなかった。

 生徒達が鈴木教諭をズッキーニと呼ぶことを他の教師も容認しており、長年受け継がれたこの学校の伝統みたいなものらしい。鈴木本人もズッキーニの愛称に不快感はないようだ。

(先生と知り合ったのは一年生では絶対に私が一番最初なのに。渡り廊下のトワイライトの絵だって、先生が高校時代に描いた絵だって知らない人もいるのに、みんな私よりも先生と仲良くなってる)

 新入部員の中には先輩達に倣《なら》って鈴木をズッキーニと呼ぶ生徒も出始めている。特に一年生の女子部員が自分よりも鈴木との距離を縮めている様は少し、いや、かなり気に入らない。

(はぁ……。自分がだんだん性格の悪い人間に思えてくる。恋をすると性格が悪くなるの?)