ギラギラとした太陽の光が校舎を照りつけている。プールサイドからはホイッスルの音が聞こえた。水泳部の練習が始まったのだろう。

 下校する者、部活動に励む者、教室や廊下に居残ってお喋りに興じる者、放課後に浮き足立つ生徒の波をすり抜けて比奈は美術室がある西棟に向かった。

 美術室は西棟の四階だ。西棟の階段を駆け上がる足は軽やかで口元は自然と緩んでしまう。

(今日は〜びっじゅつぶの日〜♪びっじゅつぶ、びっじゅつぶ〜♪)

 内心で鼻歌を口ずさむ彼女は美術室に到着する直前に女子トイレに寄った。真っ直ぐな黒髪に丁寧に櫛を入れて梳かしながら洗面台の鏡を見つめる。

 鏡に映る自分の頬が上気している理由は階段を駆け上がってきただけではない。彼にもうすぐ会えるからだ。

(よし、今日もがんばろっ!)

 トイレを出たところで後ろから軽く肩を叩かれた。振り向いた先には、比奈よりいくらか背の高いショートヘアの少女がいる。

「部長! こんにちは」
「こんにちは。石川さんは今日も元気だねぇ」

 長身の少女は三年生の広崎《ひろさき》彩未《あやみ》だ。快活な笑顔と見た目は運動部が似合いそうな彩未は、れっきとした美術部の部長である。
 彩未の後ろに二年生と一年生の姿もあり、皆で和気あいあいと列をなして美術室に向かった。