彼の素敵なところは全部独り占めしたい。この穏やかで幸せな時間が永久に続いて欲しい。

「そう言えばちゃんと聞いたことなかったんだけど、先生は私のどこが好き?」

 筆を動かす手を止めた鈴木が柔らかな笑みを浮かべて振り返る。

『顔』
「ええっ、最低!」
『何で怒るんだよ。顔が好みと言われるのは嬉しくないのか?』
「そりゃあ顔が好みは嬉しいけど……なんか、なんか違うっ! そうじゃないの。求めてる答えはそれじゃないっ!」

 納得のいかない答えに眉間にシワを寄せた比奈は腕組みをして唸った。鈴木の回答は嬉しいのに嬉しくない。
 乙女心は移ろいやすい秋の空よりも複雑で、難しい。

 拗ねた顔でそっぽを向いた比奈の頭に大きな手のひらがふわりと乗った。先ほどまで絵筆を握っていた長い指が比奈の真っ直ぐな黒髪を優しげな手付きで撫でていく。

『苦手な絵にも真摯に取り組む一生懸命なところが好き、俺のアドバイスよりも自分の感性を貫く意地っ張りなところが好き、作品を描き上げた時の嬉しそうな笑顔が好き……他にもあるけど、まだ言ったほうがいい?』
「えっと、もういいです!」

 ミルクティーよりも甘い言葉の連続が比奈の頬を茜に染めた。思わず立ち上がった彼女は照れ笑いの表情を鈴木の胸元に擦り付ける。