ペットボトルの炭酸飲料と、お言葉に甘えて自分用にはアイスカフェラテを購入して、比奈は鈴木のもとに戻った。炭酸飲料を飲み干す彼の喉が動く様を落ち着かない素振りで盗み見る。

『最近どうした? 元気がなさそうに見えるが』

 唐突に始まった話に心臓が跳ねた。膝の上に乗せた冷たいカフェオレの缶が手の熱でじわりと温まっている。

「元気がないって……私は元気ですよ?」
『んー、まぁそうなんだけどな。入部した頃はもっと元気があったように感じてさ。だからその……他の部員との技術の差を気にしているなら心配はいらないぞ。誰だって最初は初心者だ。石川の絵は確実に一歩ずつ前に進んでいるよ』

 比奈以外の新入部員達は中学時代から美術部に所属していた。途中入部の二年生の萌映も一年時は漫画同好会だ。
 皆、それぞれの形で絵に触れてきた者ばかり。

 部長の広崎彩未は油絵、水彩画、デッサン、模写、風景画も人物画もあらゆる手法の絵画が得意であり、これまで数々の絵画コンクールで入選している。萌映が描いた人気アニメキャラクターのイラストは部員から絶賛された。

 美術部に入ったくせに高校でも比奈の美術の成績は飛び抜けて良くはならなかった。四ヶ月程度で技術が身に付くわけもないが、絵の技術では初心者の比奈が一番劣る。

 もしかして心配してくれている?
 部員達の絵の上手さに打ちのめされて、比奈が落ち込んでいると思っている?

(確かに美術部の中で絵が一番下手なことを気にはしている。絵が下手な自分が美術部なんてやっていけないって思うし落ち込んだりもした。でもそれは最初からわかりきっていることだから)