恵比寿駅の駅ビルをふらつきつつ時間を潰すこと一時間。比奈は17時の少し前にアメリカ橋公園に赴《おもむ》いた。
 ここが鈴木に指定された待ち合わせ場所だ。

 くすの木通りを挟んだ向かい側には恵比寿ガーデンプレイスがある。人で賑わうガーデンプレイスに比べればアメリカ橋公園に人の姿はまばらで、公園を通り抜ける者が数人いる程度。

 夏の夕暮れはまだまだ遠い。青色の分量が多い空を眺めながら比奈は園内のベンチに腰掛けて彼を待った。

(はぁ。緊張する。先生が私に話って何? 学校の話? それとも……)

 美術の成績のことなら職員室に呼び出せばいいし、担任ではない鈴木が一年生の比奈に進路指導をするとは思えない。

 部活の顧問、教師と生徒、彼とはそれだけの間柄だ。言葉にしてしまえば紙切れよりも薄い繋がり。
 けれど今の比奈には、それが鈴木と繫がっていられるたったひとつの関係でもある。

 腰掛けたまま手持ち無沙汰に両脚をぶらぶらと揺らす。守村ゼミの個展の鑑賞は私服OKではあったが、華美ではなく美術鑑賞に相応しい服装にするようにとプリントに注意書きされていた。

 ドレスコードというものに無縁の年齢である比奈が母親と相談して決めた今日の服装は、清楚な膝丈のシャツワンピース。足元はいつもよりも大人びたデザインのパンプスだ。

(今の私って周りには何歳に見えているんだろう。でも先生にとっては私はきっと十六歳の子供なんだよね)

 髪も巻いてメイクもしている。そうやって精一杯背伸びしてみても、鈴木から見れば普段と変わらない高校一年生の石川比奈なのだろうか。