ようやく一面を見終えて次の一面に視線を移した彼女の焦点は壁の中央部に位置する絵画に合わさった。

 その絵はどこを見ても真っ赤だった。鮮やかな赤い太陽とその光に染まる茜雲《あかねぐも》、紅葉色、唐紅《からくれない》、臙脂《えんじ》色、海老《えび》色、緻密な計算の上で濃淡重なる様々な赤の落ち葉が地面にレッドカーペットを築いている。

『気になる絵があったか?』

 赤い風景画の前で立ち尽くす比奈の横に鈴木教諭が並んだ。比奈が期待していた私服ではなく、鈴木はフォーマルなスーツを纏っている。

 普段は毛先が遊び放題のボサボサ頭も今日はいくらかマシだった。散髪に行ったばかりのようで、少しだけ短めに変化した彼の髪型が比奈の目には魅力的に映る。

(学校ではもっとクタっとしたシャツでネクタイもしないくせに、今日はネクタイちゃんと締めてスーツびしっと着てる……めちゃくちゃ格好良いっ!)

 スーツ姿の鈴木を盗み見た後、比奈は赤い絵画の真下にある制作者のネームプレートを指差した。

「この絵を描いた人、先生は知っていますか?」
『この作品は……赤木くんか。さっき見かけたが……。ああ、あそこにいる。赤木くん』

 鈴木が画廊の片隅に佇む長身の男に呼びかけた。