職員室がある東館と教室が置かれた本館を繋ぐ二階の渡り廊下の壁には三十号サイズの風景画が飾られている。
彼女がその絵画と出会ったのは、入学式の翌日だった。
絵画の題名は【トワイライト】。ネイビー、ラピスラズリ、インディゴ、ミッドナイトブルー、何層にも重なった青色の洪水を柔らかく包む薄紫のベールが日没を迎える空の色を表現している。
夜でもない、昼でもない。完全な夜になる少し前のグラデーションの空には、赤い太陽と黄色い三日月が同時に浮かんでいた。
題名のプレートには制作者の名前もあり、“鈴木零士”と記載されていた。
プレートに書き込まれた卒業の西暦から察するとこの絵画は十三年前の卒業生の作品のようだ。
今日、初めてこの絵を目にした彼女は一目で心を奪われた。絵なんてこれっぽっちも興味はないし、芸術性や専門的なこともよくわからない。
かろうじてこの絵が油絵だとわかるくらいの知識しか持ち合わせていないが、理由がわからないものでも素直に好きになれる純粋さは備わっていた。