「──れ、れいじっ」


 翔悟は立ちすくんだまま、振り絞るように零司を呼んだ。

 しかし返事はない。

 その代わりとでもいうように。


「ま、よ、なか」

「あり、がと……」

「ま、よ、なか……ちょうだい」


 不気味な声と共にまた、なにかを引きずるような音がする。

 それは、こっちに近づいてきているように感じた。


 ──逃げなきゃ。逃げよう。逃げるんだ!


 翔悟は決意すると、死にものぐるいで駆け出した。

 鍵のかかった旧校舎で唯一の出入口は、一番端の教室の割れた窓。

 そこにたどり着き、外へ出ようかというとき、またまよなかさんの声がした。


「ありがと……」

「ま、よ、なか」

「もっと」


 ──ありがとう? もっと?

 頭の中に疑問符が浮かぶが、立ち止まってる暇も考える余裕も翔悟にはない。

 旧校舎を飛び出した翔悟は、そのままの勢いで家に帰った。