──まよなかさんだ。


 翔悟は直感的にそう思った。

 何度も何度も、窓を叩いている。


 翔悟は布団を被り、目をつぶる。

 闇に沈めば怖くない。


 ……そんなわけない。

 怖いに決まっている。

 まよなかさんが欲しかったのは零司じゃなかったのか。

 来るな。来るな来るな来るな。



 こんこんこんこん、こん、どん。

 がちゃん。



 割れるような音が聞こえて、それから引きずるような音。

 まよなかさんが入ってきたんだ。


「あり、がと」

「ありがとう……」

「ま、よ、なか」

「ほしい」

「ありがとう」


 まよなかさんはやっぱり、感謝の言葉を告げている。

 それでも怖いものは怖い。

 やがて、すごい力で布団が剥ぎ取られた。

 翔悟は、からだの震えが止まらない。


「ありがと」

「あり、がとう」

「しょ、ご、くん」

「ありがとう」


 ……やっぱり、まよなかさんは丸谷月乃だったんじゃないか。

 少しアクセントに癖のある『翔悟(しょうご)』の言い方には、聞き覚えがある。


「ありがと、ありがとう……」


 丸谷月乃はきっと、お礼を言いにきたんだ。

 そうだとしたら──このまま無視していたら、かわいそうだ。


 翔悟は震えをなんとか抑えて、そうっと目を開ける。