王太子レイモンは貴族学校最高学年で、当事者でもあるし、私への断罪イベントという見せ場の大役だってある。この卒業式会場に居ないということは、まずあり得ない……はずなのに、結構な時間を不在にしていた。

 レイモンはマリアンナと、今頃甘い語らいでもしているのかもしれない。そういう描写は漫画内にはなかったものの、彼女の腰に手を回し、階段を降りてくる印象的なシーンはこれから起こるのだろうから。

 けど、意を決した様子のマリアンナが私へと近づいて来たのを見て、あまり良くない胸騒ぎを感じた。この彼女が好んで、虐め役の悪役令嬢の私と話すはずがないと思ったからだ。

「っ……エレオノーラ様。今夜もお美しいですね」

 まるで、獣に追い詰められた怯えた子兎のように見える……震える声は緊張しているせい? けど、私は悪役令嬢で彼女を数々の嫌がらせで虐めているはずだから、こうなってしまうのも仕方ないのかもしれない。

 ゆるく巻いた栗色の髪と、同色の丸くて大きな瞳。やはりマリアンナは少女漫画の主人公らしく、清楚な可愛らしい顔立ちをしている。