私は真面目な顔をしたレイモンに、ぐいっと手を引かれたので、慌てて彼に声を掛けた。

「……待ってください。レイモン」

「なんだ?」

 このまま解呪出来る魔法使いの元へ私を連れて行こうとしてたらしいレイモンは、不思議そうに振り向いた。

「すぐに解呪するのは、なんだかもったいない気がして……今、記憶を失っている、この状態を楽しんでも良いですか?」

 だって、記憶取り戻せばこの記憶だってどうなるかわからないし、恋仲の王子様と記憶喪失した令嬢って、なんだかすごく良いシチュエーション。

 ただの偶然の産物で、もう二度とこんなこともないと思うし。

 レイモンは嬉しそうに笑って、その笑顔にもなんだか既視感。きっと、私は彼のこの笑顔がすごく好きだったのね。見ただけで、嬉しくなったもの。

「君のそういうところが好きだ。エレオノーラ。良いよ。わかった。これから、どうしたい?」

「卒業式に行きましょう。私たちの人生の中で、貴族学校の卒業式は、今日だけなの! 今夜だけの空気を楽しみたいです!」