高価そうなレースがこれでもかと豪華に装飾された白いネグリジェは、公爵令嬢という立場にとても相応しい。どうやらエレオノーラは起きたばかりで、メイドに髪を整えて貰っているようだ。

 とは言え、私はついさっき前世の世界に居たような感じで、何がどうなっているのかと戸惑うしかない。

「お嬢様……? 何を仰っているんです?」

 私は丁寧な手付きで髪を梳かしてくれていたメイドに聞かれて、慌てて手を鏡から離した。

「なっ……なんでもないわ。ごめんなさい」

 人の良さそうな顔をした彼女は不思議そうな顔をしたものの、意味のわからない状況への動揺を鎮めようと、私が何度か深呼吸して落ち着いたのを見て、にっこりと微笑んだ。

「……ええ。私がお仕えしているのは、誇り高きヴァスケス公爵家のエレオノーラ様ですとも。間違いありませんわ」

 転生したばかりの私が何を言わんとしていたか理解出来なかったらしい中年女性のメイドは、鷹揚に頷き鏡越しににこにこと微笑んでいた。感じ良い。意地悪悪役令嬢のメイドなのに……人徳ありそう。