だとすると、あれはレイモンなりの婚約破棄を合わせたの温情だったのかな……あの時には周囲にはエレオノーラがマリアンナを虐めたことが知れ渡っていたし、何か処罰をしない訳にもいかなかっただろうから。

 何か考えていた様子のレイモンは、慎重な口調で話を切り出した。

「エレオノーラ……君、そういえばこの前に魔法薬の店に行ったと聞いた。もしかしたら、その時に購入した薬が取り違えていたのかもしれない」

「……魔法薬のお店?」

 ……そうそう。確か物語の中でも出てきた。

 魔法薬を売るお店があったはずだ。物語の途中、マリアンナは母に似ている自分に酷い執着を向ける父親に、記憶を失う薬を飲ませるはずで……え?

 もしかして、それって。

 我知らず、喉が鳴った。

 特定の対象の記憶を失わせたい場合、飲む前に対象者の話をするらしい……けど、忘却の魔法薬のみを飲んでしまうと、何もかも忘れてしまうと……。