……あれ? 私、悪役令嬢だよ……ね?

「かっ……会場に居ました!」

「僕を放って?」

 近い近い近い。レイモンは私の両方の手首を持って、顔を近づけてきた。

 なんとか離れようとするものの、力で敵うはずもなく……今まで見たこともないような綺麗な顔が息がかかるくらいまで近づき、私は息を止めた。

「ここを離れれば、遅れて来た君がもし来た時にがっかりさせるかもしれないと、ここで待っていた僕の気持ちがわかるか? エレオノーラ。何があった? マリアンナが探していたとは、なんだ? もしかして……馬鹿にしているのか?」

「してないですしてないです。する訳なんです! 絶対、してないです!」

 一気に答えた私は、その分消費した空気を吸うことになり、上手く形容出来ないけど、物凄くいい匂いを嗅いで意識を失いかけた。

「……では、何故ここに来なかった? まずは、その理由を聞こうか? 僕が納得出来るように、ゆっくりと話してくれ」

 非常に強い圧を感じるレイモンの青い目しか見えなくなり、私はどうしても我慢出来なくなり、叫んだ。

「……レイモン殿下、近いです近いです!」