私は緊張しながら、話しかけた。だって、私にとってはレイモンは、初対面だもの。婚約者だけど。

「エレオノーラ……何をしていた?」

 やっぱり彼だったレイモンは顔を顰めて振り向き、私に聞いた。

 卒業式会場に居なかった貴方に、その台詞をそっくりそのまま返しても構いませんか?

 けど、立場上、そんな訳にもいかないと軽く咳払いをして、私はレイモンに言った。

「あの……マリアンナ様が、殿下を探しておりました。それに、卒業式もそろそろ終わろうとしています。殿下の出番なのでは?」

 私に婚約破棄する時間が近づいておりますとも言えず、卒業式会場に行こうと上手く促したつもり。どこか得意げな様子になってしまった私に、彼は眉間に皺を寄せて低い声で言った。

「マリアンナ? ああ……あの平民の……? 何故、僕を探している?」

「……? マリアンナ様と、出席されるはずだったのでは?」

「彼女と? ……僕が?」

「あ……はい。まあ……」

 いかにも機嫌の悪そうな表情のレイモンとの会話が噛み合っていないことに、私はようやく気がついた。