……あれ?

 なんだか、顔が冷たいと思って触ったら、涙が頬を伝っていた。ふわりと吹いた夜風に冷やされて、なんだか悲しい……。

 そっか……私のこの身体は、レイモンのことが好きだもんね。

 でないと、彼が優しくした女の子に嫉妬したりして、嫌がらせなんてしないよ……そうだよ。レイモンを好きだから、嫉妬するんだよ。それ以外に何も悪くないマリアンナを虐める理由なんてある?

 けど、レイモンに今夜婚約破棄されないと……田舎追放なんてなまぬるい断罪は、今時珍しいんだからね。

 私は手の甲で涙を拭って、前を向いて歩き出した。レイモンはまだ私の婚約者だけど、彼の心はマリアンナのもの。今更何かしたって、もう遅いんだから。

 レイモンを探していた私は、通りがかった庭園にある噴水あたりに居る人影を見て、立ち止まった。

 ……背の高い男の人?

 背中しか見えないけど……あれって、きっとレイモンだ。

 月明かりしかなくて視界も悪いのに、私には何故かそれがわかった。

 ゆっくりと近付けば、それは確信に変わる。光を弾く金色の髪。この国の王家特有の濃い金色だ。

「……レイモン……殿下?」