「ご馳走様でした」

私は食器を下げようとした。


「いい。そのまま置いてろ」

「いえ、片付けます」

「お前絶対食器落とすから」

「大丈夫です」

「その皿、1枚5万な」


金額を聞いて、私はそっと手をのけた。



「ところであの〜…」

「なに?要件を先に話せ」

いちいちムカつく言い方だな、ほんとに!



「お母さんたちの新居を教えてもらっていいですか?帰らないとなんで」

「お前はここに住み込みだけど?」

「は…い?住み込み?」

そんな内容書いてた!?


「求人にそんな事書いてました!?」

「書いてないけど、俺が決めた」


あんたは一体何者のつもりやねん!!




「いや、意味がわからないしそもそも私の服とか荷物とか…!」

「お前の母親が荷物まとめてくれたから、こっちに運んでおいた」


お母さん!!
何手伝っちゃってんの!?


「とにかく今日からここに住め」


目まぐるし過ぎて、また悪酔いしてきた。。。



「阿部様、お部屋にご案内いたします」


飯田さんに案内され、ついていく。



ガチャ

「こちらでございます」



「わぁ。。。」

とても広くて綺麗なお部屋。
それに夢にみたベッド。



「くすっ」

飯田さんが笑った?


「すみません、反応が可愛らしかったもので」

かっ可愛い!?


そんな事、男の人に初めて言われて焦ってしまう。



「阿部様のお母様も弟の晴様も、新居をとても喜んでおいででした」

「そうですか…」

喜んでるなら…よかったかな。。



「ただ、伊織様の事はとても心配なさっておりました。後でご連絡を差し上げてくださいませ」


お母さん…

「はい」



「お荷物はあちらにございます。後ほどお風呂にご案内いたしますので、ご準備が整いましたらお呼びくださいませ」


飯田さんの優しさに、今はすごく助けられる。


「飯田さん、色々とありがとうございます」

「…とんでもございません」


飯田さんは部屋から出て行った。


部屋には段ボール箱が2つ。

開けると、部屋着のジャージや学校の物など色々入っていた。


あっ、家族写真もある。



お父さんがいた頃の4人での写真。



「あ…れ……」

なんで涙が出るんだろ。

ホームシックっていうやつかな?


アパートよりも遥かに大きな部屋。
夢にまでみたベッドや自分の部屋。


なのに、この寂しさはなに?



私は急いでスマホで連絡をした。


あかん!!
ギガ数足りないからメッセージ送れない!!!
日付が変われば月が変わるから、ギガ復活するのにー!

無料電話も使えない。




先、お風呂入ろう。。


パジャマ替わりのジャージを持って部屋を出ると、飯田さんが待ってくれていた。


「ご案内しますね」



連れてきてもらったお風呂は、これまた家のお風呂とは思えない広さで、戸惑ってのぼせてしまった。



お風呂から上がり、髪を乾かして部屋へ向かう。


ん?部屋?どこ???


迷路だ!



飯田さんもいない。

どうしよう。。


ひとまず、広い脱衣所に戻る。
もうここで生活できるぐらいの広さだし、この脱衣所で寝てもいいんだけどな。


時計を見ると23:55。

もうすぐ日付が変わる。
早くお母さんたちに連絡がしたい。


だけど


ウト……

今日色々あり過ぎたせいか、眠気が襲ってきた。




「ふぇ!?」

私寝てた!?


やっぱりこの脱衣所で生活出来るんじゃない!?


時計を見ると0:40になっていた。
結構寝てしまっていた。


部屋に戻って連絡しなきゃ。


うぅ、、だけどやっぱり眠い。。

目をこすり、なんとか眠気を覚まそうとするけど瞼が落ちてくる。



それに部屋もわかんない。
広過ぎて迷路だよ。


あっ…見覚えのある廊下。
やっと知ってる場所に辿り着けた。


ここだ。